変化系アイテムは、人や神といった生命を持つものだけでなく、生命を持たない物質を変化させて別のものを生み出す力を持つものもあります。今回は、中国の唐の時代に実在したとされる不思議な筆「五色の筆」について解説していきます。
唐の時代、泰山という中国随一の霊峰で薬草を採っていた廉広という男が、ある隠者から五色の筆を授かりました。この筆は、思ったままに絵を描けば、必ずご利益があるという不思議な力を持っていました。しかし、その力は同時に、大きな危険を孕んでいたのです。
廉広は、ある役所の長官の命令で、進撃する百人の兵とこれを迎撃する兵を壁に描きました。すると、その晩、壁に描かれた兵士たちが動き出し、互いに戦い始めたのです。長官は気味悪がって壁を取り壊し、廉広は恐ろしくなって逃げ出してしまいました。
その後、廉広の噂を聞きつけた別の長官が、龍を描くよう彼に命じます。廉広が絵を描き上げると同時に、龍は天に昇っていきました。妖術使いの疑いをかけられた廉広は、長官に投獄されますが、大きな鳥の絵を描いてそれに乗り、脱獄に成功します。
そして、泰山に戻った廉広は隠者と再会しますが、忠告を守らなかったことを怒られ、筆を取り上げられてしまうのです。
廉広は、長官の命令に従って絵を描いただけなのに、なぜ隠者から叱責され、筆を取り上げられてしまったのでしょうか。ここでは、五色の筆をめぐる疑問について考察していきます。
廉広は、権力者の命令に従って絵を描いただけであり、彼自身に悪意はなかったと考えられます。しかし、五色の筆は、その力ゆえに大きな影響力を持つ危険なアイテムでした。隠者は、廉広がそのことを理解せず、安易に筆を使ったことを咎めたのでしょう。
隠者は、廉広が五色の筆を悪用することはないと見込んで、彼に筆を授けたのかもしれません。しかし、廉広は隠者の期待を裏切り、結果的に筆の力を制御できなくなってしまいました。隠者は、廉広の未熟さを嘆き、筆を取り上げたのではないでしょうか。
五色の筆は、使い方によっては天下を取ることさえ可能な強力なアイテムです。しかし、その力は同時に、大きな混乱を引き起こす可能性も秘めています。隠者は、廉広がそのことを理解していないことを危惧し、筆を取り上げたのでしょう。
五色の筆は、描いたものに生命を宿らせるという、魅力的な力を秘めたアイテムです。しかし、その力ゆえに、大きな危険を孕んでいることも事実です。廉広の物語は、私たちに、力の使い方を誤ると、取り返しのつかないことになるという教訓を与えてくれます。